1990年代の週刊少年ジャンプ、特に1996年まではジャンプの黄金期とされています。この時期の発行部数は600万部を超えることが何回もあり、まさにモンスター級の少年漫画誌でした。
ではそのライバル誌の少年マガジンはどうだったのかというと、こちらも1990年代の掲載漫画は群を抜いて面白い作品が多く、週刊少年マガジンも1990年代は黄金期だったといえるでしょう。
1990年代の少年マガジンは、ヤンキー漫画と呼ばれる不良がメインキャラクターの掲載作品が多く、それ以外の漫画においてもアニメ化・ドラマ化といったメディアミックス戦略が上手くハマっていた時期でもありました。
今回は、1990年代の少年マガジンで人気だった漫画を振り返ってみましょう。
カメレオン
少年マガジンだけでなく1990年代のヤンキー漫画ブームを盛り上げたのが、加瀬あつし先生の名作「カメレオン」
80年代、昭和世代の漫画に登場する不良やヤンキーは素行は悪くても心は優しくて寂しがりやといった認識が一般的でしたが、1990年代に入ると漫画で描かれる不良もアップデート。髪型やファッション、喧嘩の仕方がよりリアルになっていきました。
「カメレオン」は、喧嘩は弱いが口のうまさとハッタリには定評のある矢沢栄作が主人公。
幾多の喧嘩や修羅場を天性のひらめきと口のうまさで切り抜け、いつしか不良界のカリスマにまで上り詰めていくといった成り上がりストーリー。
当時、少年マガジンには「疾風伝説 特攻の拓」「湘南純愛組!」といったヤンキー漫画が掲載されていましたが、「カメレオン」はそれらと比べても圧倒的にギャグが強めな漫画でもありました。
千葉が舞台で、松戸市をこの漫画で知った人も多かったのではないでしょうか。
疾風伝説 特攻の拓
こちらも1990年代の少年マガジンを語る上では外せない「疾風伝説 特攻の拓」
「疾風伝説 特攻の拓」と買いて(かぜでんせつ ぶっこみのたく)と読みます。漢字に対する独特の当て字や読み方は、この漫画の特徴の一つで、
「“待”ってたぜェ!!この“瞬間(とき)”をよぉ!!」
「“事故”る奴は…“不運(ハードラック)”と”踊(ダンス)”っちまったんだよ…」
といった具合に漫画の至るところで見かけました。現在ではネットミーム化していることもあり、漫画を読んだことがない人でもSNSで見かけたことがあるネタにまで発展しています。
この漫画も1990年代ヤンキー漫画ブームを大いに盛り上げ、牽引しました。
神奈川を舞台にあらゆるタイプの暴走族や不良が登場しますが、主人公はどちらかといえばいじめられっ子気味の浅川拓(通称・拓ちゃん)で、喧嘩は弱くても友達想いの行動が一般読者の共感を呼びました。
神奈川のリアルな暴走族や不良世界、さらに漫画内では「単車」と呼ばれるバイクのディティールにこだわりのあった不良漫画の名作ですね。
「高校デビュー」といったワードが認知されたのもこの漫画や「カメレオン」からだった記憶があります。
湘南純愛組!
「疾風伝説 特攻の拓」と同じく神奈川の不良を描いた青春ストーリー。
1990年代になると不良もよりファッショナブルでおしゃれになり、チーマーやストリートギャングといったスタイルが人気になっていきます。暴走族や不良にはダサいといった感覚が出始めたのも90年代。
「湘南純愛組!」では鬼塚英吉と弾間龍二の通称・鬼爆コンビが脱ヤンキーを目指して男子校から共学高校へ転校するものの、結局喧嘩やトラブルに巻き込まれていく物語を主軸にギャグを織り交ぜつつストーリーが進行していきます。
時代を上手くキャッチして不良のファッションがオシャレになっていったり、恋愛エピソードがあったりとヤンキーだけに収まらない要素が沢山詰められた漫画でした。
「湘南純愛組!」の連載終了後には、続編的な破天荒教師漫画の「GTO」がスタート。主人公の一人だった鬼塚英吉は「GTO」の主人公としても大活躍。後にアニメ化、ドラマ化といったメディアミックスにも繋がっていきます。
シュート!
1990年代の少年マガジンといったらヤンキー漫画のイメージがどうしても強くなりがちですが、スポーツ漫画も充実しています。特にマガジン派が熱くなっていたのが大島司先生の「シュート!」ではないでしょうか。
「シュート!」は掛川高校サッカー部に入部した田仲俊彦が成長していく青春サッカーストーリー。序盤のクライマックスは何といっても、1年上の先輩ミッドフィルダー、伝説の10番!久保嘉晴によるインターハイ静岡県予選準決勝・掛川北高校戦においての「奇跡の11人抜き」です。
白血病を患いながらもチームの勝利の為に試合に出場、まさしく命を削って獲った1点に、当時の「シュート!」読者はみんな泣いたのではないでしょうか。さらにその後に容態を悪化させて帰らぬ人となってしまった久保先輩、、、。
「シュート!」といえばまず語られるのが久保先輩、と言われるほど存在感のあるキャラクターでした。
MMRマガジンミステリー調査班
現在に至るまで都市伝説や陰謀論は子供にも人気なコンテンツ。怪奇現象や世の中の不思議に対して好奇心が止まらないのはいつの時代の子供も一緒です。
そんな1990年代当時の少年たちに上手くハマッたのが「MMRマガジンミステリー調査班」です。
特に1990年代には、1999年に世界が滅亡するという「ノストラダムスの大予言」に対する興味や関心が高かったように思います。関連した書籍もよく売れていました。
そういった世の中の超常現象、怪奇現象に対して「週刊少年マガジン」の編集部内に設立された「MAGAZINE MYSTERY REPORTAGE/マガジン・ミステリー・ルポルタージュ」が謎を解く、といったレポート漫画でした。
漫画の内容は当たり前のようにフィクションですが、登場人物もちゃんとマガジン編集部のメンバーがモデルになっていたりと現実とも上手くリンクしていたのも面白かった要因でしょう。
BOYS BE…
1990年代の少年マガジンはヤンキー漫画が複数掲載されていたこともあり他のジャンルの漫画の存在感が薄い気もします。
しかし、実際にはスポーツやコメディーでも面白かった漫画は沢山ありました。特に少年ジャンプや少年サンデーに比べると弱いと思われていた恋愛コメディーにおいてもちゃんと名作は存在します。
恋愛未経験であろう中学生、高校生に向けてとびきり甘酸っぱく描かれた恋愛ラブコメ漫画、それが「BOYS BE…」です。
「BOYS BE…」の最大の特徴は、オムニバス形式で連載がされていたことではないでしょうか。特定のキャラクターの恋愛や成長を見守るストーリー漫画とは違い、毎回毎回登場するキャラクターやシチュエーションが変化するのも斬新でした。
毎週異なる恋の芽生えやボーイ・ミーツ・ガールに同級生や友達の恋愛話を聞くようなくすぐったさを覚えた人も多いのではないでしょうか。喧嘩のシーンが多かった少年マガジンにおいて一服の清涼剤的な存在の漫画でした。
金田一少年の事件簿
名探偵・金田一耕助の孫、金田一一(きんだいちはじめ)が数々の事件を解決する本格ミステリ漫画が「金田一少年の事件簿」です。1990年だけでなく漫画史においても珍しいくらいにしっかりとしたレベルのミステリ作品ではないでしょうか。
読者は漫画を読み進めながら、金田一と同じように推理するのがこの作品の醍醐味ではないでしょうか。少年マガジンを読んでいる同級生と犯人を推理し合うのも当時の楽しみの一つでした。
漫画のヒットを受けて、1995年には日本テレビ系列で実写ドラマ化も実現。主演はkinki kidsの堂本剛で、その後のドラマシリーズではジャニーズタレントが主演を務める流れを作りました。
続編には、本編から20年後を舞台とした「金田一37歳の事件簿」があります。
将太の寿司
少年マガジンだけでなく料理漫画の代表作として有名な作品に「ミスター味っ子」があります。1980年代に少年マガジンに掲載され、アニメ化もされて料理漫画ブームの火付け役にもなりました。
その「ミスター味っ子」の後に掛かれたのが「将太の寿司」です。
北海道・小樽の寿司屋に生まれた主人公・関口将太が、名店で修行に励みライバルたちとしのぎを削って寿司職人として成長していくストーリーを描いた寿司漫画。大型チェーン店に嫌がらせを受けて廃れた実家の寿司屋を再建するために奮闘する将太が見所です。
前作「ミスター味っ子」では扱う料理のジャンルや食材は多彩でしたが、今作品では単一のジャンルにフォーカスしたことにより寿司という料理の奥深さも、より伝わりました。
まとめ
令和の感覚で1990年代の漫画を読み返すと、アレ?と感じることが増えてきましたね。
特にコンプライアンスが厳しくなった今、当時のヤンキー漫画を読むと驚くことも多いかもしれません。
そんな感覚も含めて1990年代の少年マガジン作品を読むとより面白いかもしれませんね。興味を持った方は是非読み返して世界観にどっぷりとハマってみてください。