有名なファッションデザイナーが映画のワードローブからインスピレーションを得たり、主演女優が最新のクチュールを身に纏ったりと、ファッションと映画は常に密接な関係にあります。
今回は、1990年代のファッションや空気を感じさせてくれる映画をピックアップしました。
90年代の10年間を代表するような映画であり、さらには90年代のトレンドファッションを知るには持って来いな作品です。
1980年代は、パッド入りショルダー、パフドジャケット、ビッグヘア、デザイナーズウェアへのこだわりなど、ゴージャスでボリューム感が特徴的な時代でした。
過剰に派手になっていくファッションへの反動か、1990年代に入るとファッションスタイルは明らかに控えめになっていきます。
スリップドレス、ドクターマーチン、チョーカー、クロップトップなど様々なアイテムがトレンドとなり、それは現在のワードローブの定番にもなっています。
デニムやスニーカーも大ヒットし、ヒップホップやグランジ、フレンチ・カジュアルなど音楽やストリートから流行が生まれていった時代でもありました。
これらのストリート生まれ、ストリート育ちのファッションは90年代に最も花開き、現在へと脈々と受け継がれています。
ここからは、そんな90年代の空気を感じさせてくれる映画をピックアップ!代表的なファッションと共に、代表的な映画を紹介していきます。
(出典:FANDOM)
1991年末にかけて、Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」が全米で大ヒット、80年代に市民権を得ていたカーリーヘアー、レザージャケット、派手なアイシャドウといったハードロックムーブメントはダークでヘヴィなグランジミュージックに塗り替えられていきます。
ジェネレーションX(60年代、70年代生まれの世代) によって見出されたカート・コバーンとシアトルのグランジシーン。
彼らが日常的に着用していた古着屋で売っているようなチェックシャツ、カーディガン、ボサボサのロングヘア、コンバース スニーカーといったコーディネートは、瞬く間にアメリカのティーンエイジャーへと浸透していきます。
一方でアメリカの10代女子たちは、グランジバンドHOLEのリードシンガーであるコートニー・ラブを新しいロールモデルとして始めます。コートニーはカート・コバーンの妻でもあります。
シアトル出身のカート・コバーンが木こりの様なフランネル シャツを着ていたのは暖かくて安かったのが理由です。
グランジミュージックがシアトルに勃発してからしばらくの間、チェックシャツは流行に敏感な若者達のユニフォームの様でした。フランネルシャツのインナーにはT シャツを着て、破れたジーンズを着用するのが定番スタイルです。
X世代が持つ自己陶酔と痛々しいまでの誠実さが味わえる「シングルス」(1992年)
90年代の消えゆく時代にシアトルを舞台にグランジに傾倒する人々を描いたロマンチック・コメディ映画が、キャメロン・クロウが監督を務めた「シングルス」
ブリジット・フォンダ演じるコーヒーショップのウェイトレスとマット・ディロン演じるグランジバンド「シチズン・ディック」の現実主義のフロントマンの恋愛の失敗を描いたこの作品は、令和の現在に見ると時代を感じさせずにはいられません。
監督のキャメロン・クロウは、主人公役にはサウンドガーデンのクリス・コーネルを希望していたが、スケジュール的にも折り合わず結果マット・ディロンが起用されることとなりました。
サウンドトラックには、当時のグランジムーブメントを代表するようなパールジャム、アリスインチェインズ、サウンドガーデン、マッドハニーなどが参加しているのも当時の空気感をしるのにうってつけですね。
マット・ディロン演じる、クリフが着用している緩めのショーツ&スパッツにハイカットブーツ&ソックスというコーディネートが語源でもあるグランジ(薄汚れ)感満載でたまりません。
90年代ファッションを詰め込んだ「エンパイア・レコード」(1995年)
「エンパイア・レコード」は、老舗のレコードショップで働くティーンエイジャー達が企業の買収に立ち向かう様を描いたドタバタ青春映画。
個人経営のレコードショップが企業に飲み込まれまいと奮闘する一日が、当時のヒット曲をバックに展開されていくので90年代のファッションと音楽、両方のカルチャーを知るには持って来いの映画といえるでしょう。
リブ・タイラー演じるコリー・メイソンは、映画クルーレスからニルヴァーナまで、90年代ファッションの代表的なエッセンスを取り入れスクリーンに登場します。
ふわふわのパウダーブルーのモヘアのクロップドセーター、チェックのプリーツミニスカート、黒のドクターマーティンを履いた彼女は、90年代グランジファッションを象徴するキャラクターとして今でも映画ファンに愛されています。
このコーディネートは20年以上たった今見てもクールです。一連のファッションは映画の製作スタッフがリブ・タイラーの良さを引き出そうと試行錯誤したといいます。ドクターマーチンに至ってはリブ・タイラーの私物だとか。
90年代のファッションだけでなくライフスタイルもよくわかる「リアリティ・バイツ」(1994年)
グランジファッションがよく理解できる最も典型的な映画である『リアリティ・バイツ』は、ウィノナ・ライダー、イーサン・ホーク、ジャネーン・ガロファロ、スティーブ・ザーン演じる4人のルームメイトが、大学卒業後の生活に伴うあらゆる不安や葛藤を乗り越えようとする様を描いた青春映画です。
特にウィノナ・ライダーはカート・コバーンを思わせるダークなカラーパレット、オーバーサイズのシャツ、花柄ドレスといったグランジファッションにインスパイアされたレトロ感のある着こなしを披露しています。
90年代の感性という特殊なレンズを通して、20代半ばの生き方を淡々とリアルに表現しているストーリーもおすすめです。
90年代初頭は日本ではバブル経済の崩壊、アメリカにおいては冷戦による不況に喘いでいました。
ベトナム戦争やヒッピームーブメントを経て1990年代に突入したアメリカでは、改革によって社会が是正された感覚に乏しく、ジェネレーションX(X世代)と呼ばれた世代は浴びる様に音楽や映画といったカルチャーにはまっていくのでした。
80年代のファッショントレンドは装飾が派手な物が受け入れられていましたが不況となっていた90年代のアメリカにおいては対照的に、よりシンプルでストレートなファッションが若者に浸透していきます。
ストリートファッションは、グランジファッションと被っていますがワイドでルーズなボトムにゆるゆるなビッグサイズのTシャツ。
足元はスニーカーで、頭には後ろ向きのキャップといった、大人になることを拒む様なコーディネートが特徴的です。
NYの生のストリートファッションが見れる「KIDS」(1995年)
写真家のラリー・クラークによる初監督作品で、ラリーの友人でもあるハーモニー・コリンによって撮られた「Kids」は、アルコール、ドラッグ、セックス、暴力が日常化したストリートチルドレンの日常をドキュメントタッチで描いた作品です。
キャストは全員1990年代のリアルなコーディネートで、ワイドレッグのスラックス、コンバース オールスター 、バンダナ、リンガーTシャツ、後ろ向きに被るキャップ、ボーダーシャツなどなど。
映画は今でもファンに愛されており、2015年には「KIDS」をテーマにした限定版のZINEが制作されたり、シュプリームは同じ年に映画のアニバーサリーとして全コレクションをリリースしたりもしています。
痛烈で生々しくエッジの効いている「トレインスポッティング」(1996年)
アーバイン・ウェルシュの小説を原作とする、ダニー・ボイル監督の1996 年の映画『トレインスポッティング』は、イギリスで生まれた最高の映画の1つ。
ロンドンに引っ越して人生をやり直そうとする麻薬中毒者のレントンの姿が描かれています。
麻薬中毒者たちが水面下で必死に麻薬と手を切ろうとする物語を通じて、90年代イギリスの下層文化をリアルに描写していることでも有名です。
ファッション的な見所としては、主人公のユアン・マクレガーが裂けたデニムにカットオフのTシャツ、腰にネルシャツを巻いて街を駆け抜けるシーンが挙げられます。ダボついたトレーナーやジャージ、お洒落な坊主頭も含めて実に90年代的ですね。
映画自体はファッションもカルチャーも、全部まとめて長く愛される作品ではないでしょうか。
控えめなジャン・レノと若さ溢れるナタリー・ポートマン「LEON」(1994年)
リュック・ベッソン監督によるスタイリッシュでやさしさのあるアクション・スリラー「LEON」は、ジャン・レノが若いナタリー・ポートマンを腐敗した警官や彼女の家族を殺害した麻薬密売人から守るストーリーです。
当時13歳のナタリー・ポートマンはエッジの効いたショートのボブヘアにチョーカーを身に着け、MA-1のフライトジャケットを羽織って登場。今現在もそんな”マチルダ”のスタイルを街でもよく見かけます。
この作品が映画デビューだったクロエ・セヴィニーがデニムに赤いスケーターベルトを締めていたのも90年代ストリートファッションとして目に止まります。
ウィノナ・ライダーで見る90年代ファッション「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991年)
(出典:CINEMORE)
1988年の『ビートルジュース』や『ヘザース』で注目を集めた新人のウィノナ・ライダーは、「リアリティ・バイツ」で当時のトレンドでもあるグランジファッションを披露する前には「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991)でミリタリージャケット、オーバーサイズのカーゴパンツといったメンズライクなコーディネートも見せています。
90年代に関連する記事について
90年代にはフランス人の日常的なファッションであるフレンチ・カジュアルも流行しました。
流行の一端でもあるagnès b.の世界的なブームやフレンチ要素のあるコーディネートは、当時の映画業界にも取り入れられていました。
ワンランク上のコーディネートを見せる「バッファロー’66」(1998)
1998年に発表された『バッファロー’66』は、インディーズのヒット作として万人受けするものではありませんでしたが、俳優、脚本家、監督、画家、音楽家、何でもできる男、ヴィンセント・ギャロの名前は多くの人が知るところとなりました。
ヴィンセント・ギャロの監督デビュー作でもあるこの作品は、繊細な前科者が少女を誘拐し、両親の前で妻として振る舞うことを強要する、痛々しいほど美しい物語で、作品の公開から20年を経て、その魅力は全く失われていません。
奇想天外な物語もインパクトがありますが、ファッションも独特です。
ギャロのタイトなレザージャケットにストライプのTシャツ、赤いアンクルブーツ、スリムフィットパンツの腰からはグンゼの下着が見え、クリスティーナ・リッチは白いカーディガンにパステルブルーのドレス、水色のタイツを身につけています。
リップグロスから始まり、ブルーのグリッターアイシャドウをまぶた全体に塗り、下まつげに同色のラインを細く引いた艶やかな化粧をしたリッチは、一見すれば厚化粧の娼婦の様なビジュアルですが、ギャロにとっては自分を新しい世界に導いてくれる天使の様な存在だったのかもしれません。
ジャン・ポール・ゴルチエによるデザインも見所「5thエレメント」(1997年)
ブルース・ウィリスとミラ・ジョヴォヴィッチが、宇宙で悪と戦うSF映画。
映画のあらすじだけを聞けばありきたりな印象を受けますが、この映画で最も重要なのは、ジャン・ポール・ゴルチエのデザインが使われていることです。
彼のディテールへのこだわりは、エキストラでさえも、宇宙時代のシックな装いで登場し、疲弊と高揚を感じさせます。
正確には90年代のトレンドファッションが採用されているわけではありませんが、ジョヴォヴィッチ演じるリールーの白いボディスーツは、90年代のゴルチエのランウェイを彷彿とさせてくれます。
モノクロで見るリアルなフランスファッション「La Haine」(1995年)
邦題は「憎しみ」、『La Haine』は、マチュー・カソヴィッツが脚本、共同編集、監督を務めたフランス発モノクロのドラマ映画です。
フランスの映画でありながらスクリーンに映し出されるのはパリの美しさではなく、フランスの下層階級。
パリの経済的および社会的下層階級に閉じ込められた人種的に多様な若者グループが主人公で、彼らの着こなしは90年代フランスのリアルなストリートファッションでもあります。
それぞれがアメリカのヒップホップ カルチャーに夢中になっているため、ナイキ、カーハート、エバーラスト、リーボック、ラコステ、といったスポーツウェアなどのビッグ ブランドを身につけているのが特徴的です。
張り詰めた空気感とヒップホップを取り入れたストリートファッションは今の時代とも立派に共鳴する要素ではないでしょうか。
色彩で見る90年代ファッションは、ブラックが多くのアイテムに取り入れられていたように思います。
カジュアルファッションに飽き、シックでよりハードなメンズライクコーデに傾倒したのも90年代の特徴かもしれません。
ポップカルチャーのアイコンとなったタランティーノ作品「パルプフィクション」(1994年)
「パルプ・フィクション」でユマ・サーマンが演じたミア・ウォレスに関するかなりの部分が、今では90年代カルチャーのアイコンとして認識されています。
特にサーマンのテーラードスタイルは大人っぽさに溢れ作品の印象にも大きく影響しています。
サーマンに用意した黒いパンツの丈はどれも少し短かったのでプロポーションを強調するためにクロップドパンツを復活させたといいます。
そして、マフィアのボスの妻であることを強調するために、用意されたのがゴールドのシャネルのスリッパ。
更にブラックのボトムを際立たせる為に、男性用の白シャツのウエストを絞り、大きめの襟と長めのカフスで女性らしさを演出。
劇中で一番印象に残るであろうダンスシーンでは、ジョントラボルタも上下ブラックのスーツでフロアに上がっています。
同じくタランティーノ作品である「レザボア・ドッグス」でも、黒のagnès b.のツーピースのスーツ、レイバンのサングラスとブラックカラーがフューチャーされています。
(出典:フロントロウ)
一流大学を目指す名門私立高校や進学コースを擁する進学校を、海外ではプレパラトリースクール(preparatory schools)と呼び、これを略して「プレップ」といいます。
「プレップ」に通う富裕層や良家の子供を「プレッピー」とも呼び、そんな彼らのスタイルを「プレップ・ファッション」と呼んでいます。
いわゆる「アイビー」スタイルとはまた違った、若くてオーソドックスな上品さが特徴とされています。
代表的なアイテムは、白のソックスにチノパン、オックスフォードシャツ、バーシティージャケット、ケーブルニットなどなど…。
女子の場合はジャケットに合わせたクラシックなチェック柄のプリーツスカートなどが「プレップ・ファッション」にあたります。
90年代プレッピーファッションのバイブル「クルーレス」(1995年)
当時のアメリカのティーンエイジャーが嫉妬の声を上げたシェール(アリシア・シルバーストーン)の素晴らしいワードローブもさることながら、親友ディオンヌの帽子コレクションも素晴らしい。
そんな「クルーレス」は90年代最大のファッションムービーであり、90年代のキッチュでシックなプレップスタイルを満喫するにはうってつけの作品です。
シェール(アリシア・シルバーストーン)のシフォントップやクロップド丈のセーターベスト、体育の授業でよく登場するタンクトップとTシャツの重ね着、象徴的なアライアの赤いドレスなど、その衣装は現代でも十分に通用する洗練さがあります。
中でも最も典型的なクルーレスルックは、シェールとディオンヌ(ステイシー・ダッシュ)のお揃いのドルチェ&ガッバーナのチェック柄セットで、黄色(シェール)とモノクロ(ディオンヌ)、メリージェーンとオーバーニーストッキングを着用したものではないでしょうか。
他にもシースルーの白いハイソックスにシルバーのパンプス、白いTシャツにクラシックなバイカージャケット、アズディン・アライアの真っ赤なミニドレスなどを次々に披露してくれます。
「クルーレス」が公開された1995年は、プレップ・ファッションにおいては明るい色と柄が時代を席巻していました。
もしプレップなコーディネートをするのであれば、当時の雰囲気を再現するために赤いウェールズパンツに白いセーターを合わせてみると良いでしょう。
過去20年以上に渡って90年代の映画ファッションは、ファッションデザイナーや映画ファンにとって、常にインスピレーションの源となってきました。
世界的に90年代ファッションのリバイバルが定着した今こそ、映画から当時のファッショントレンドを振り返ってみるのも面白いのではないでしょうか。
90年代ファッションをこうやって映画で振り返ってみると、当時のトレンドファッションはメディアからのお仕着せではなく、音楽やストリートでのムーブメントから発生していることも理解できます。
ファッションの原動力は、常に自分たちが着たい服を着ることであるべきなんでしょうね。