90年代の音楽シーンの特徴には、J-POPの台頭が挙げられます。
昭和的な歌謡曲は徐々に人気を失い、洋楽をベースにした日本語の楽曲がシーンの中心となっていきます。それに加えて音楽のジャンルも先鋭化、細分化していくのでした。
インターネットの出現も徐々に消費者の生活スタイルに影響していきます。
海外のファッションや音楽ともアクセスがしやすくなったのも90年代です。そのため過去にはマニアックであったブラックミュージックや、打ち込みを中心としたテクノやエレクトロニカなどを取り入れたダンサンブルな楽曲も多くリリースされました。
今回は、90年代にヒットしたダンスミュージックにフォーカスして紹介したいと思います。
バブルガム・ブラザーズのデビューは1983年と古く、デビューした当時から和製ブルースブラザーズ、和製サム&デイブと呼ばれ日本の音楽シーンでブラックミュージックが浸透する下地を作ったグループとも言われています。
「WON’T BE LONG」は1990年に発売されたシングルで、お茶の間にソウルやファンクを伝えるかのような親しみやすいメロディとシンガロングできるサビが人気の曲です。
1990年8月にラジオでのヘビーローテーションにも選ばれ、フジテレビ系列の音楽番組「ヒットスタジオR&N」のエンディングテーマにも採用されたことで人気が急上昇。
曲中の「オリオリオリオー」のコールアンドレスポンスはブルースブラザーズのオマージュであり、90年代に入り流行していたカラオケでもノリの良かったこの曲は多くの人に歌われることとなり大ヒットしました。
ジワジワと人気を高めていったこともあり、販売は1990年ながら翌年1991年の第42回NHK紅白歌合戦へも出演を果たしました。
90年代といえばTKプロデュース。元々はTMネットワークでプレイヤーとして活躍していた小室哲哉さんがプロデューサーとして大活躍していたのが1990年代邦楽シーンの大きな特徴ではないでしょうか。
小室さんは数々のミュージシャンやシンガーをプロデュースする一方、従来のダンスミュージックをお茶の間に分かりやすく伝える媒介の様な役割でもありました。
globe「DEPARTURES」はそんな高度化されていくTKサウンドと、平成のどこか不安定な社会の空気が上手くマッチングしたかのような冬の名曲です。
雪や冬をテーマにした楽曲で1996年1月1日と元旦リリース。JR SKISKIのCMソングでもあり、ピアノがフューチャーされて徐々に盛り上がっていくサウンドはボーカルのKEIKOさんの歌唱力をより引き立ててくれました。
90年代を代表する音楽家の小室哲哉さんと、フジテレビ系音楽番組「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」のMCを務めていたお笑い芸人ダウンタウンの浜田雅功さんのコラボレーションによる「H Jungle with t」も当時は大きな話題となりました。
リリースしたシングル「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」はオリコンのウィークリーランキング7週連続1位を記録、累計で213.5万枚を売り上げた大ヒット曲になりました。
ユニット名に含まれている「ジャングル」とは90年代に興ったダンスミュージックのジャンルのこと。
元々はレゲエDJがターンテーブルの回転数を誤って音を再生したのを面白がったことを起源としています。太くて低いベース音と倍速のピッチで再生されるドラムループが特徴の音楽です。
小室さんは、浜田さんの喋り方が「ジャングル」のビートに合っていたからコラボレーションに当時最先端だった「ジャングル」をベースに楽曲を持ってきたと後に語っています。
当時はマニアしか知らないような「ジャングル」をお茶の間レベルに落とし込んでヒットさせたのは流石TKと言わざるを得ません。
元フリッパーズギターの小沢健二さんと、ヒップホップグループ・スチャダラパーのレコード会社を超えたコラボレーションが「今夜はブギー・バック」
現在までに様々なアーティストにもカバーされ、CMでも起用されていたので耳にしたことがある人も多いでしょう。
カバーしたアーティストもTOKYO No.1 SOUL SETや加藤ミリヤさん、宇多田ヒカルさんなど、インディーズから超有名な方までに多数カバーされています。
小沢健二さんがメインの”nice vocal”バージョンと、スチャダラパーがメインの”smooth rap”バージョンの2パターンが発売され、その後のアーティストコラボの先駆けともなった作品です。
バックトラックにはNYのヒップホップデュオのナイス&スムース「CAKE & EAT IT TOO」がサンプリングされていて、緩めのヒップホップ感がたまらない一曲です。
別アーティストの音源をサンプリングする手法は、90年代の邦楽シーンではまだまだ珍しかったこともあり、この曲でヒップホップに目覚めた人もいたほどです。
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「Shangri-La」(シャングリラ)は、テクノポップユニット電気グルーブによる8枚目のシングル。1997年にリリースされ、日産自動車のCMに起用されたこともあり大ヒット。
「夢でキス・キス・キス」といったストレートに愛を感じさせる歌詞や、アルゼンチンのピアニスト、ベブ・シルヴェッティの楽曲「スプリング・レイン」をサンプリングした抒情的な曲調は、これまで電気グルーブが作ってきたテクノ調の曲とは異なっています。
一切ネタ的要素がなくシリアスな楽曲ですが、「ドリカムを聞いているような人たちが間違って買ったら面白いと思って作った」と石野卓球さんが語っている通り、遊び心が実を結んだ結果のようです。
曲調としてはテクノっぽさは少ないものの、シルヴェッティの元曲が70年代ディスコ風、ハウスの走りのような楽曲なのでダンスミュージック的なグルーヴを作り出しています。
90年代におけるTKサウンドの台頭やavexの隆盛は、音楽とダンスをセットで表現するアーティストを複数誕生させました。
1992年結成の日本のダンス・ポップ・ユニットTRFは、その代表的なグループで小室哲哉さんプロデュースのもと、シンガーだけでなくダンサーとDJを配した新しいスタイルの音楽を日本に根付かせました。
そんなTRFの「survival dAnce 〜no no cry more〜」は、1994年5月にリリースされた6枚目のシングルで、フジテレビ系ドラマ「17才-at seventeen-」主題歌タイアップもありオリコン初登場1位を記録しています。
TRFは1994年から1995年にかけてのシングル5作品でミリオンセールスを記録したり、レコード大賞受賞や紅白出場など90年代に一時代を築きました。
小室哲哉プロデュースで90年代を代表するアーティストといえば安室奈美恵さんも外せません。
「Chase the Chance」は安室さんのソロ名義になって二つめのシングル作品であり、前作「Body Feels EXIT」と共に安室奈美恵初期を代表する名曲です。
安室さんの登場は、歌って踊れるカッコよい女性アーティスト像の確立と、印象的なドラミングやラップを歌唱として取り入れる最先端なサウンドを両立させました。
安室さんは1996年頃からはスローなテンポでグルーヴィーなR&B路線に移行してしまいますが、1990年代の初期から中期まではアップテンポなユーロビートを基調としたサウンドに激しいダンスがセットでした。
「夢なんて見るもんじゃない、叶うもんじゃない、叶えるものだから」と歌うことで、当時の10代女子からもカリスマ視されていくのでした。
「Choo Choo TRAIN」(チュー チュー トレイン)は1991年にリリースされた、ダンス&ボーカルユニットZOOの4枚目のシングル。
元々はテレビ番組の企画から生まれたZOOですが、「Choo Choo TRAIN」がJR東日本「JR Ski Ski」のCMソングに抜擢されたことで人気を不動のものにしていきます。
シンガーソングライターの中西圭三さんが作曲したこの曲は、累計で105万枚を売り上げる大ヒットを記録。1992年には武道館でもライブを開催し、1995年の解散までJPOPシーンを駆け抜けました。
現LDHの創始者、EXILEのHIROさんが在籍していたグループとしても有名で、「Choo Choo TRAIN」は後にEXILEによってカバーされ再ヒット。
アメリカのディスコサウンドグループD.Trainの楽曲「Keep On」がサンプリングされていることもありダンサンブルなビートとR&Bのテイストが絶妙にマッチした名曲です。
また楽曲だけでなく、Choo Choo TRAINダンスと呼ばれる 数人が縦に一直線上に並び、タイミングをずらして体を回すダンスも色んな場所で流行りましたね。
90年代の音楽は、現在のJ-POPの基礎として多大なる影響を与えました。2022年ではシティポップなどの音楽がリバイバルしており、影響力は増していく限りです。
90年代テイストの音楽を制作する方も増えていて、「ジデン」という方が90年代をテーマとした楽曲を多く制作していますので90年代テイストを知りたい方は参考にしてみるのもいいかもしれません。
90年代はJ-POPの黄金期でした。そして多彩な音楽ジャンルが一般的になっていった年代でもあります。
70年代、80年代に人気だった昭和の歌謡曲やフォークロックは影を潜め、洋楽的なアプローチのJPOPがそれらにとってかわっていきました。
そして小室哲哉さんが手がけたハウスやユーロビート的なアップテンポなテクノサウンドや、グルーヴィーでスローなテンポのディスコサウンドは時代の空気とも見事にマッチしていました。
現在の邦楽シーンにおける礎は90年代に作られたといっても過言ではないでしょう。
懐かしむだけでなく別の視点で90年代に流行ったダンスミュージックを聴きなおしてみれば新しい発見があるかもしれませんよ。