山下達郎さん、大滝詠一さん、竹内まりやさん、そして今は亡き松原みきさんなど70年代、80年代にリリースされていた日本のポップサウンドが、今海外でも国内でも若者に人気です。
「シティポップ」と総称され、厳密な曲のジャンルやルールがあるわけではなく、その名の通り【都会的】で【洗練】されたポップミュージックが「シティポップ」とされているのです。
今回は、前回に続いて1990年代「シティポップ」の隠れた名曲をご紹介します。世界が愛する日本の90’s「シティポップ」を是非お楽しみください!
HAPPY LIKE A HONEYBEE – ピクニックには早すぎる – / フリッパーズ・ギター(1990年)
70年代からの邦楽ポップスの盛り上がりや、AOR(adult-oriented rock)の影響が今日でも聞かれている「シティポップ」を形作ってきました。
しかし、80年代から90年代に移行するにあたって「シティポップ」の隆盛もかげりをみせるようになっていきます。
都会的な幻想は消滅したこと、音楽自体が商業化されJPOPとなってより大衆化していったこと、80年代中期から90年代初頭にかけて消滅したバブル景気の影響も大きかったはずです。
しかし、1990年代になったことで都会的なポップスが全て消滅してしまったわけではなく、新たなポップス文化の誕生がありました。それがピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターなどの「渋谷系」と呼ばれるアーティスト達です。
ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターを手掛けたプロデューサーの牧村憲一氏は、過去に山下達郎さんや竹内まりやさんの作品を手がけていたこともあり、「渋谷系」とは過去の「シティポップ」の再発見といった側面もあったのです。
また音楽的には、ジャズ、ソウル、ラウンジの影響もみられ進化した都会的要素を内包した「渋谷系」サウンドは、拡大解釈をした「シティポップ」とも受けとれるのかもしれません。
「渋谷系」を代表するフリッパーズ・ギターのデビューアルバムに収録されていた「Happy Like a Honeybee -ピクニックには早すぎる-」は、1990年にシングルカットされた「Friends Again -フレンズ・アゲイン-」のカップリング曲。
フリッパーズ・ギターのデビューアルバムは全曲英語詩で作成されており、当時としても珍しかったです。
小山田圭吾さんの甘く切ないヴォーカルとメロディーライン、小沢健二さんの歌詞が鮮烈な印象を与えてくれます。演奏技術に関するレベルは今でも指摘はされるものの、デビュー時特有の勢いとセンスが感じられるネオアコ楽曲です。
雨にキッスの花束を / 今井美樹(1990年)
過去の曲を聴くと当時の流行や社会情勢が大きく影響していたことが分かります。
1980年代中ごろから連載が始まり大ヒットした柔道漫画に「YAWARA!」があります。それまでスポ根ものの定番だった柔道を、主人公を女性にしてよりポップに描いたことでアニメ化や実写ドラマ化までされた人気作品です。
主人公が女子高生であったのも女性の社会進出が顕著になったこと時代背景がありそうです。
また作中で主人公の猪熊柔が目指していたのがバルセロナオリンピックだったこともあり、1992年に現実のバルセロナオリンピックの開幕が近付くに連れて漫画も、1989年からスタートしていたアニメも盛り上がっていくのでした。
そんなアニメ版「YAWARA!」のオープニングやエンディングテーマには、主人公を連想させるかのように永井真理子さん、原由子さんなどの女性ボーカルの楽曲が起用されていました。
永井真理子さんによる「ミラクル・ガール」は原作の世界観にマッチしており、「YAWARA!」といえばこの曲のイメージが強い人も多いことでしょう。
「雨にキッスの花束を」は、今井美樹さんによる「YAWARA!」の2代目オープニングテーマ、1990年に発売されたアルバム「retour」に収録されている中の一曲です。
元々シングルカットするために作られた楽曲ではなく、番組側がアニメに合った楽曲を探している中で今井さんの「雨にキッスの花束を」に巡り合ったことでの選択でした。
作曲を手掛けたのは、「愛は勝つ」で御馴染みのシンガーソングライター・KANさんですが、この曲はその「愛は勝つ」が大ヒットする直前のもの。
KANさんのポップセンスが抜群で、今井さんの大人の女性のボーカルも、少女から大人になる時期にあった作中の主人公にとてもマッチしていました。
アニメの主題歌といった背景を抜きにしても「シティポップ」として非常にクオリティの高い楽曲ではないでしょうか。
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コンディション・グリーン〜緊急発進〜 / 笠原弘子(1990年)
1990年代に入ると従来の【都会的】で【洗練】された「シティポップ」は、JPOPへと吸収されていき「シティポップ」としての呼称は耳にしなくなっていきます。
そんな90年代において【都会的】で【洗練】されたポップスとしてピチカートファイブやフリッパーズ・ギターなどの【渋谷系】アーティストの登場が注目を集めます。
【渋谷系】以外で、現在の耳で当時の音楽を聞き返した時に【シティポップ】と読んでも差し支えない楽曲は声優やアニメのアルバムやシングルに多くあったように思います。
例えば、前回も紹介した笠原弘子さんによる1990年代のポップソング「コンディション・グリーン〜緊急発進〜」などもそんな一曲ではないでしょうか。
声優だけあって澄んだヴォーカルに、爽やかな疾走感、胸が躍るようなアレンジは良質なポップサウンドです。
この曲はゆうきまさみさん原作の「機動警察パトレイバー」の後期オープニング主題歌として起用され、今でも根強いファンからシリーズの代表作に挙げられる人気曲です。
声優やアニメソングの作品は一般の音楽ファンからして壁があったのか、当時のガールポップやシティポップのファンからは敬遠されていたように思いますが、聴かず嫌いがもったいないと思える楽曲のクオリティです。
音源だと笠原さんのヴォーカルのキーが高いようにも思えますが、ライブなどでは中、低音の音域もしっかりとしていて、さすが声優!と思えます。
ロマンス/原田知世
隠れた名曲と銘打ちながら、あまり隠れていませんが1990年代の原田知世さんの楽曲もとびぬけて素晴らしい。
特にカーディガンズのプロデューサーでもあったトーレ・ヨハンソンを迎えて作成された1996年「Clover」、1997年「I Could Be Free」、1998年「Blue Orange」の北欧三部作と呼ばれるスウェディッシュポップに傾倒した作品は、シンプルで力強い素朴な楽曲と原田さんの透明感のある歌声が絶妙にマッチしていて、今でも人気が高いのもうなずけます。
1997年にリリースされた「I Could Be Free」からのスマッシュヒット「ロマンス」
この曲もトーレ・ヨハンソンがプロデュースをおこない、ヴィンテージな機材で録音されました。
その甲斐もあって非常に温かみのある音質と、原田さんの透明感のある歌声とのマッチングがたまりません。ほんのりと哀愁のある愁いを帯びたメロディが素晴らしい。
原田さん自身は女優やタレント業をしながらも常に音楽活動は続け、21枚のオリジナルアルバムを発表(2022年現在)しているベテラン歌手でもあります。
年齢を重ねつつも「時をかける少女」で見せた透明性をいくつになっても感じさせてくれるところに歌手・原田知世の凄味を感じますね。
まとめ
1990年代に入るといつの間にか「シティポップ」という呼び方はしなくなりましたが、探してみれば「シティポップ」と呼んで差し支えない良質なポップスが90年代にもあります。
いつの時代にも良質なポップスが音楽ファンを魅了してきましたが、90年代の「シティポップ」も名曲がたくさん隠れています。興味を持った方は掘ってみると面白いものですよ。
最近ですと「ジデン」という方が90年代テイストの楽曲を制作していますので参考までに聴いてみるのもいいかもしれません。